本に読みふけっていた青年の姿があった。彼もまだ2429Dの乗客だったのだ!これには驚き、やはり「青春18きっぷ」ユーザーであることを確信する。ホームへ出て、まもなく「おおぞら10号」が釧路方から接近。どんよりとした道東の空の下、キハ83系のブルーを基調とした車体が、雪の構内に映えている。今日はスピードもそこそこ、比較的緩やかな速度で上りホームを通過していった。そして16時01分、2429Dも厚内を出発。そろそろ太平洋が見えてもいいあたりだな、と思っていると、右手に鉛色の荒涼とした海原が現われた。が、それもつかの間。雪原の中を、2429Dは東へ走る。直別に停車し、15回目の交換。ここでは5分停まる。ホームヘ出ると、跨線橘に上りたくなった。
有名なカフェ・モーツァルトのような「伝統的カフェハウス」である。ここは一般のカフェと次のような点で異なっている。?給仕が黒のスーツまたは白い上着に蝶ネクタイをつけた年輩の男性であること。彼らを称してヘア・オーバー(給仕頭)と呼ぶ。ベテランになると大学教授顔負けの威厳があり、大勢の客の相手をひとりでするため客に対する態度はきわめて中立的だ。椅子の配置も見事で窓際、柱などの側、店内どこに座っても違った良さがある。しかも給仕頭ひとりで動くため静かだ。?世界各国の新聞が豊富に置いてある。世界機関や国際会議が多いウィーンには、様々な国の人々が集まり情報を交換する。伝統的カフェハウスはそうした人々に利用されるため、世界各国の主要新聞が豊富に置かれている。たいてい片手で特ったままページがめくれる携帯読書棒が実に優れモノ)がついていて、それを読みながら世界情勢を論じ合うのだ。そして右手でコーヒーカップを持ちながら読書棒で新聞を支えて読む。これが正しいウィーン式カフェテラス利用術だ。?コーヒーを注文すると、小さな銀の盆にコーヒーとカップに入った水を載せて持ってくる。ほかのヨーロッパの街では水は別注。しかもミネラルウォーターを頼まないと飲めないが、その点ウィーンは水質がよい。?カフェによっては、テーブルや椅子を外に並べ大きな鉢植えの木で囲う。これはシヤニガルテンと呼ばれ、ウィーン市内を散歩していると、あちこちで見かける。これを見つけたら伝統的なカフェハウスがある証拠だ。コーヒーを頼む際も日本とはかなり違う。
マレーシアのクアラルンプールで4つ星クラスのホテルに滞在した。フロントで「チェックインカードに記入を!」と紙を差し出された。A5判くらいの大きさの紙に細かく記載事項がある。たいてい、名前、住所、電話番号、国籍、パスポートナンバー、滞在日数を埋めればよいのだが、まだ高級ホテルに泊まり慣れていなかった私は、質問事項をひとつひとつ細かく埋めていった。しかし……困った。既にフリーランスだったので、「Company(会社名)」の欄が埋められない。なぜかこのとき、質問に答えなければ泊まらせてもらえないのではないか?と異様にビビっていて、悩んだ挙げ句、正社員ではないといううしろめたさを感じながらも出張依頼をされていた会社名を書き込んだ。すべての欄に書き込みを終え、カードを渡すとフロントスタッフがなにやら質問をしてくるではないか。やはり……。「コーポレートなんとか……」と連呼している。う、うそがバレたのか?お前はフリーランスだろ?こんな汚い格好をしたサラリーマンはいないってか?実際はそんな内容ではまったくないが、カマをかけられているのではないかという被害妄想にとりつかれていた。いくつかの質問に答えると解放され、その後も難なく1週間、バスタブ付きのゆったりルームで快適に滞在することができた。そして、精算時。なんの不満もなく、通常の1泊200リンギット(約8000円)分のお金を用意してチェックアウトにのぞむ。しかし、なんと請求額は1泊40リンギット(約1600円)。「コーポレート価格」という赤いスタンプが明細書の中央に押されている。なるほど。以来、コーポレート価格なるものの存在を知り、チェックインカードには会社名を必ず記入しているが、名刺の提示を求められたり、こんな会社知らないよ!と失敗することもある。